箱入娘の歌
作詞:森林太郎
作曲:永井建子(「雪の進軍」の譜)
1.
西施楊貴妃生ませた親の
自慢娘の旅順ぢやけれど
昔くどいたらつひ落ちたのを
いつか忘れて養女にいつて
今ぢやロシヤの箱入娘
おちぬ噂が世界に高い
2.
鉄條網の八重の関据ゑ
掩蓋深く姿も見せず
水門口から忍んでゆけば
探海灯の目でおどしつけ
今ぢやロシヤの箱入娘
おちぬ噂が世界に高い
3.
勧降書といふ附文見ても
けんもほろゝのすげない返事
頼みに頼んだ白襷さへ
途中まで往つて逐ひかへされた
今ぢやロシヤの箱入娘
おちぬ噂が世界に高い
4.
今ぢやロシヤの箱入娘
落ちぬ噂がよし高いとて
昔し落した馴染ぢやものを
今度落さにや男が立ちぬ
落ぬ靡かぬ名代の娘
日本男子が落して見せう
5.
恋の邪魔するクロパトキンが
沙河の向う[ママ]でもぢもぢするうち
こつぢやお先へもうお正月
屠蘇の機嫌でくどいて見たら
おちぬなびかぬ名代娘が
又もころりとつひおとされた
出典:『鴎外全集19巻』
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