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2. 乱砲乱発百雷の 音凄じく吹く風ハ 血の臭気を運び来て 鼻にかぐだに腥き 思へば死人多からん 敵に死人の多からバ そハ好き機(をり)よ揉潰せ 味方に死人の多からバ そハ危かり疾く救へ などて怖るる事やある などてたゆたふ事やある |
3. 風に閃く聯隊旗 記紋(しるし)は昇る旭(あさひこ)よ 旗ハ飛来る弾丸に やぶるる程こそ誉なれ 身ハ日の本の兵よ 旗にな耻じそ進めよや 斃るるまでも進めよや 裂かるるまでも進めよや 旗にな恥ぢそ恥ぢなせそ などて怖るる事やある などてたゆたふ事やある |
4. 雪を含める朝風に 向つて嘶く馬の声 凍ゆる手先取緊めて 吹きぞ合はする喇叭の音 是等の響聞く時ハ 鈍き心もまた勇む さるを何ぞや武士が 励まぬ事のあるべきぞ いざや敵をバ破らんづ などて怖るる事やある などてたゆたふ事やある |
5. こハ敵中に囲まれぬ 猶予(ゆよ)ゑて事を愆つな ここに囲まれたる者ハ すべて一聯隊中の 苦楽を同(とも)にせし者ぞ おなじ戦土の戦死(うちじに)ハ 願ふても無き幸なるよ 命を安く売りなせそ なるべき程は高く売れ などて怖るる事やある などてたゆたふ事やある |
6. 星影寒く夜は更けぬ 今宵ハ月も出でざれバ 夜攻(ようち)あらんも料られじ 鞍を下すな馬々に 秣与へて夜を明かせ すは聞け遠砲雷一声 すは敵寄せなん用意しね 味方ハ小勢なりとても すべて日本男児なり などて怖るる事やある などてたゆたふ事やある |
7. 凍月高く冴亙り 平原十里風寒志(さぶし) 砦ハ元の儘ながら それを守れる人もなし さらば敵早逃げたるよ 味方ハ既に克ちたるよ げに戦ハおもしろや さらバ進みて巣窟を 衝崩さんづ崩さんづ などて怖るる事やある などてたゆたふ事やある |
8. 破れて迯(に)ぐるは国の恥 進ミて死ぬるハ身の誉 瓦となりて残るより 玉となりつつ砕けよや 畳の上にて死ぬ事は 武士の為すべきみちならず 躯を馬蹄にかけられつ 身を野晒になしてこそ 世に武士の義と言はめ などて怖るる事やある などてたゆたふ事やある |
<備考> |
[曲について] この詩から三篇を抜き出してつくられたのが、軍歌「敵は幾万」である。選ばれなかった歌詞も軍歌として引けを取らない出来であると思われる。 当然ながら、「敵は幾万」の旋律で歌うことも可能。 <参考関連文献> |