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戦艦大和の歌
1942

作詞:坂井保郎
作曲:岩井重一

 

1.
遠すめろぎの畏くも
肇めたまひし大大和(おほやまと)
永遠に栄ゆる日の本の
神武の正気今ここに
凝りてぞ成れる浮きつ城

【遠すめろぎの...】・・・「遠すめろぎのかしこくも/はじめたまひしおほ大和」(「紀元二千六百年頌歌」、東京音楽学校作詞・作曲、1940年)

【神武の正気】・・・「正気」は「愛国行進曲」の項でも触れた文天祥のそれだろう。問題は「神武」を何と読むか。既存音源では「じんむ」としているがこれだと「神武天皇」の意味となる。もうひとつ、「しんぶ」の可能性もある。『戦陣訓』に「克く世界の大和を現ずるもの是神武の精神なり」という箇所があるが、ここでは「しんぶ」と読まれる(東条英機吹込みの音源を参照)。もっとも『戦陣訓』の対象は陸軍だが。

【浮きつ城】・・・「軍艦行進曲」でお馴染みの言い回し。軍艦。

【醜の御楯】・・・「今日よりはかへりみなくて大君の醜の御楯と出立つ吾は」(『万葉集』) よく軍歌に使用される「醜の御楯」という表現の淵源はこの歌。

【倒れて止まぬ】・・・もともとは「斃れて後已む」(『礼記』)という表現。「たおれてやまぬ」とすることで、より意味が強くなっている。

【数二千】・・・作詞当時の乗員数は2500名前後。

【八紘為宇】・・・「神武紀」より定番の表現。「八紘一宇」よりもこちらの方が原文に忠実。

【撃ちてし止まむ】・・・これも神武記紀。久米歌。

2.
醜の御楯と畏みて
倒れて止まぬ尽忠の
大和ますらを数二千
心を磨き技倆(わざ)を練り
断乎と守れ太平洋
3.
嗚呼悠久に伝ふべき
八紘為宇の大理想
行手を阻む敵あらば
無敵の巨砲雷と吼え
撃ちてし止まむ大和魂

 

<備考>

[曲について]
 大和に連合艦隊司令部が置かれていた1942年、艦内公募によってつくられた戦艦大和の艦歌です。作詞者は坂井保郎中尉、作曲者は連合艦隊軍楽隊の岩井重一隊長でした。

 大和は軍事機密だったので当然艦歌のレコード化は行われませんでしたが、戦後の1976年になって初めて音盤になりました。

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 八巻明彦氏[1]によると、歌いだしの部分が「大政翼賛の歌」(両手を高く差し上げて...)によく似ている、ということですが確かにその通りです。

 曲以外にも、上掲のように歌詞もまた他の軍歌などからの影響がみられます。素人の作詞ですし、公開されるようなものでもなかったので、既存の軍歌からの引用は当然かも知れません。他の艦歌も同様であったと推測されます。

[1] 八巻明彦 『軍歌歳時記』 ヒューマンドキュメント社戦誌刊行会、1986年、66-67頁。

<参考関連文献>
軍歌戦時歌謡大全集 東条英機『戦陣訓』吹き込みあり。
日本書紀〈上〉 (講談社学術文庫)

 

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