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大日本の歌
日本文化中央連盟撰定
1938

作詞:芳賀秀次郎
作曲:橋本国彦

 

収録:軍歌戦時歌謡大全集

1.
雲湧けり 雲湧けり みどり島山
潮みつる 潮みつる 東の海に
この国ぞ 高光る天皇
神ながら治しめす 皇御国
ああ 吾等今ぞ讃へん 声もとどろに
類なき古き国がら 若き力を
<現代語訳>
緑深い島山には雲が湧き上がり、
そして東の海には潮が満ちている。

この国こそ、
高くまします天皇が、
神ながら治め給う皇国であるぞ。

ああ 我等は今こそ声高らかに讃えよう、
我が国の比類なき古い国柄と、
新たに興る若い力とを。

<註>
・高光る・・・「日」にかかる枕詞。「天皇(すめらみこと)」=「日の御子」の連想か。
・神ながら・・・「神として」と、「神慮のままに」の二種の意味がある。
戦前日本の状況を考えれば前者の意味だろうが、後者の意味も捨て難い。
天皇は現人神であるのと同時に、神々を祀る司祭としての役目も持つからである。
従ってここではそのまま「神ながら」とした。
・皇御国・・・「すめらみくに」とは「天皇の治める国」の美称であるから、
「天皇が治め給う皇国」というのは二重形容となる。慣用語とみるべきだろう。

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2.
風迅し 風迅し 海をめぐりて
浪さやげ浪さやげ 敢へてゆるさじ
この国ぞ 醜はらふ 皇軍
義によりて 剣とる 皇御国
ああ吾等今ぞい往かん かへりみはせじ
日の御旗 ひらめくところ 玉と砕けん
<現代語訳>
支那事変勃発に風雲は急を告げる。
この報は海をめぐる、波風よ立ち騒げ、
どうしてこの支那の暴虐を看過できようか。

この国こそ、
醜敵を撃ち滅ぼす皇軍が、
道義に基き剣を執る皇国であるぞ。

ああ 我等は今こそ征こうぞ、
断じて振り返りはしないのだ。
日の丸の旗がひらめくところ、
我等は玉のごとく美しく砕け散ける覚悟だ。

<註>
・1、2行目の意味がいまいちわからない。より具体的に支那事変を指しているのだと解した。
「支那事変勃発」、「この支那の暴虐を敢えてゆるさじ」。なぜなら、「道義に基いて皇軍が
剣を執る皇国」だからだ。「波さやげ」は、「支那事変勃発により発生した波風よ、騒ぐなら
騒いでみよ、看過はしない」と理解できるだろうか。同じような構造を持つ次の様な歌もある。
「吼えろ嵐恐れじ我等」(「国難突破日本国民歌」)
・かへりみはせじ・・・ご存知「海ゆかば」から。
・玉と砕けん・・・こちらもご存知「玉砕」。もとは『北斉書』より。大東亜戦固有の用語ではない。

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3.
気は澄めり 気は澄めり うまし山川
眉あがる眉あがる 雲のはたてに
この国ぞ 一億の皇御民
挙りたち 奮ひたつ皇御国
ああ吾等今ぞ進まん 明き心に
新しきみ国の歴史 ひらけつつあり
<現代語訳>
美しい山河に大気は澄み渡り、
人々は大望を胸に大空の果てを見上げる。

この国こそ、
一億の臣民が、
ひとり残らず理想に奮起する皇国であるぞ。

ああ 我等は濁りない心で今こそ進もう。
新しい我が国の歴史が、
今開けつつあるのだ。

<註>
・眉あがる〜・・・宏遠な理想を持つが故に大空の彼方を見据え眉が上がる、と解した。
理想とは、具体的な指示があるとすれば満州国の理念「五族協和」「王道楽土」あたりか。
満州国を経営し、連盟を脱退し、ドイツと防共協定を結び、支那事変を遂行し、
やがて亜細亜主義という思想が政治の全面に台頭してくる当時の状況が、
「新しきみ国の歴史」といったところだろう。この路線はその後、「八紘一宇」や
「大東亜共栄圏」に繋がるのはいうまでもない。

 

<備考>

[1.曲について]
 1938年、日本文化中央連盟が公募・選定[1]した国民歌です。高校教諭であった芳賀秀次郎の詩が選ばれ、東京音楽学校教授の橋本国彦が作曲しました。この国民歌は、前年より始まっていた日本放送協会の「国民歌謡」にも収録されています[2]

 時代は支那事変の勃発後であり、また数年後に紀元2600年の式典を控えるという状況。それゆえ歌詞も軍国主義と皇国賛美というふたつの側面を持っています。数年後に量産される皇国賛歌の先駆ともいえるでしょう。

 1939年には、国民音楽協会でこの歌の1000人による合唱も行われました[3]

<脚注>
[1]
日本の唱歌 ()』 金田一春彦ほか編 講談社、1982年、222頁。
[2] 同書。
[3] 同書。

<参考文献>
日本書紀 岩波文庫版、含神武紀。
新訂 新訓・万葉集

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[2.音源について]
 ふたつの戦前録音が存在します。

 ひとつはビクターの軍歌戦時歌謡大全集に、もうひとつはコロムビアの軍歌戦時歌謡大全集に、それぞれ収録されています。良録音です。個人的に前者が好み。

A.U.C.2761年6月27日更新

 

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